ほぼ10年ぶりになる工場の生産ラインの撮影のラストカットにOKを出したのが26日20時過ぎ。体感温度-10℃?工場建屋のシルエットの奥に大きな赤い月が出ていた。
それから撤収に1時間余り。クライアントたちと別れ近くの飯屋に急ぐ。炭火が顔をあぶり冷えきったからだが溶けていく。肉のまずさより、きつい撮影がぶじに終わったことに祝杯をあげながら、このチームと一緒に旅芸人一座のような仕事ができたら、とふと思った。行く先々で、折々の花や野草や夕日や雲や川の流れや、吹きすぎる風などを撮りながらshortmovieにして、まず、その町でいちばん寂しそうな顔をした人を見つけ手渡し宿と飯と交換してもらい一夜を過ごす。次の日はいちばん幸福そうな顔をしている人を見つけ同じように過ごす。そして町から町へ村から村へ山を越え平野を渡り岬をめぐって、温泉を堪能しながらこのニッポンを流れていく。そんなJapanesquegypsyのようなイメージを硬い肉と鮮度の落ちた魚を焼く勢いだけは派手な炭火を見ながら、彼らの笑い声を聴き、店に入る直前にけつまずいて強打し出血した左ヒザをさすりつつ夢想していた。
その店の駐車場でみんなと別れ、東北道に。iPodに入れた阿久悠全曲集を聴きながら帰京。高空にいつまでも冴え冴えとした月が見えていた。帰宅し紀州備長炭15本入りの風呂にながくつかり、今日正午まで爆睡。起き出してハワイコナを淹れタバコに火をつけた。3日から目を通さなくなった朝刊3紙の見出しだけを目の端にいれながら膝に赤チンを塗る。昨日聴いた阿久悠が妙にはっきりと甦っていく。情歌。あるいは艶歌。そんな言い方があった頃のgypsymusic。もしくはニッポンブルース。一年が、過ぎた。
♪舟歌
作詞 阿久悠 作曲 浜圭介 唄 八代亜紀
お酒はぬるめの燗がいい
肴はあぶった イカでいい
女は無口な人がいい
灯(あかり)はぼんやり ともりゃいい
しみじみ飲めば しみじみと
想い出だけが 行き過ぎる
涙がポロリと こぼれたら
歌いだすのさ 舟歌を
沖の鴎に 深酒させてョ
いとしあの娘とョ 朝寝する
ダンチョネ
店には飾りが ないがいい
窓から港が 見えりゃいい
はやりの歌など なくていい
ときどき霧笛が 鳴ればいい
ほろほろ飲めば ほろほろと
心がすすり 泣いている
あの頃あの娘を 思ったら
歌いだすのさ 舟歌を
ぽつぽつ飲めば ポツポツと
未練が胸に 舞い戻る
夜更けたさびしく
歌いだすのさ 舟歌を
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