2010年10月24日日曜日

喜界島そして奄美。south paradise前夜のこと。



北から南へ舵を切ると決めたとき
P社の地下のレストランに
長岡と山岡と古川がいた。
上の会議室では紛糾をどう収拾するか
クライアントと汐留とプロダクションが
バトル中。いや、おれを外す算段中と
腹を決めた上で美瑛のロケハンから羽田に戻った
渡辺がかけつけてくるのを待っていた。
降りると言明した上で
もし続けるように申し入れがあった場合を
4人で想定しながら腹に食い物をいれていた。
そのとき古川がぽつんと呟いた。

「きかいじま」
「なに?」
「奄美なんです」
「あまみって、あの奄美か?」
「そこのはしっこで
きかいじま。
喜ぶ、世界の界。
いままでロケで行った中で
この世のはてみたいに
きれいなところでした」
「この世の涯か。
喜ぶ世界の島で
きかいじま、か。
よっし南転しよう」
「えっ、いいんですか?
おれの感じだけで」
「この世の涯なんだろう?
       それ以上、何がある。
北進転じて南へ。
こっちから申し出よう」

そこに渡辺が北海道から直行してきた。

「なべ。いろいろあったけど
美瑛は捨てる。奄美だ。
南に舵切るぞ。
南だ。南。
すぐに調べろ」

目が点になりながら
「はい」と返し、「で?」と聞いた。
長岡も古川も、すでに気持は南に向いている
そんな顔でうまそうにコーヒーを飲んでいた。
山岡は、当たり前のように微笑んでいた。

降りてきたプロデューサー二人に
その旨を伝えると、死んでいた目に
さっと炎が走った。
勝てる展開をつかんだときのプロデューサーは
まことにしたたかで強い。

ことは一気に進み
十日後には、奄美の海辺にいた。
そのそばで西郷さんのようなオキさんが
永遠に続くような微笑みを浮かべていた。
泣きたくなるような静かで美しい浜だった。

これが“south paradise”と名づけたムービーの
southの根拠である。

    B・ベントンの“雨の夜のジョージア”を聴きながら
2010.10.24 雨の夜に T.M

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